アキレス腱断裂の看護 術後の観察項目

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看護学生からアキレス腱断裂の術後は、何に注意して患者さんの観察をすればいいですかと質問を受けました。病院によってリハビリの進め方や術式が違うので、細かいポイントは異なると思いますが、多くの病院で共通することをまとめてみました。

アキレス腱断裂術後の観察項目

アキレス腱断裂術後の観察項目

・ギプス固定
・創部の評価
・疼痛の評価
・循環不全の評価
・神経麻痺の評価
・DVTの評価
・褥瘡の評価
・松葉杖の使い方

術後のギプス固定

足関節を背屈することによりアキレス腱が伸びます。そのため、術後すぐに足関節を背屈してしまうと、アキレス腱の強さが十分ではないために再断裂やゆるみが生じます。

また、術後すぐに全体重をかけると強力に足関節が背屈しアキレス腱へ負荷がかかってしまいます。アキレス腱への負荷を減らすために、術後はギプス固定をして免荷します。

術後のギプス固定は1 〜 2 週間程度です。ギプス固定中は調子が良くても、ギプスを除去後に患者さんが不調を訴えることがあります。これは、ギプス固定を外した後の解放感からか、患者さんが急激に足首を曲げることでアキレス腱に負荷が加わり、再断裂やゆるみが生じることがあるためです。固定を外した直後には注意が必要です。

褥瘡の評価

ギプス固定やシーネ固定中には、踵骨部や外果部などの褥瘡好発部位の皮膚状態を評価します。シーネ固定中は 1 日 1 回の巻き直しを実施し、観察を行いましょう。

創部の評価

手術後の創部の評価は、出血、感染、皮膚の壊死、創部の解離に気を付けましょう。アキレス腱周囲は皮下組織が乏しく、創縁に皮膚壊死を生じる可能性があります。 創部の感染は、コントロールが良くない糖尿病などの合併症がある患者さんでは特に注意が必要です。

疼痛の評価

手術後の疼痛コントロールは、 担当の先生から消炎鎮痛薬などが処方されていることが多いです。 患者さんから、ほぼ100%手術した部位の痛みを訴えられます。手術による痛みで一過性のものが多いのですが、手術した後は痛いものだと決めつけて痛みの評価を疎かにしてしまうと、術後合併症を見逃すことになります。

ビジュアルアナログスケール(VAS)などを用いて、疼痛の評価を行いましょう。毎日評価することで、痛みの程度が良くなっているのか悪くなっているのか、 術後何日目から痛みがひどくなっているのかも評価することができます。

術後に一度引いた疼痛が再燃する場合は、 術後感染やギプス固定による コンパートメント症候群の可能性を調べる必要が出てきます。詳細な看護記録を毎日記載することで、増悪する疼痛の原因精査を担当医師が行いやすくなります。

🖊カルテ記載例

患肢アキレス腱にNRS 6/10の疼痛あり

循環不全の評価

ギプス固定による長時間の圧迫や患肢の浮腫で、患肢が循環不全を生じることがありま す。コンパートメント症候群のリスクを評価するために、疼痛(pain)・脈拍消失(pulselessness)・運動麻痺(paralysis)・知覚麻痺(paresthesia)・蒼白(pallor)・腫脹(puffiness)の 6P の有無を調べましょう。また、足趾を他動的に動かしたときに疼痛が増強しないかも調べましょう。

🖊カルテ記載例

疼痛なし
脈拍消失なし
運動麻痺なし
知覚麻痺なし
蒼白なし
腫脹なし

他動的伸展による疼痛増強なし

神経麻痺の評価

アキレス腱のすぐ外側には腓腹神経が走行しています。アキレス腱縫合術後に腓腹神経障害を生じることがあります。後足部外側の感覚低下が無いか確認しましょう。

また、術後に麻酔が残っているときには下肢が外旋位となりやすく、腓骨頭付近を通る総腓骨神経が圧迫されることがあります。総腓骨神経麻痺が起こると母趾や足関節の背屈筋力が低下し、足背や下腿の外側に感覚障害やしびれを生じます。また、足関節の背屈が不能になる下垂足になります。タオルや枕などを用いて、腓骨頭を圧迫しないように注意しましょう。

🖊 カルテ記載例

足背や下腿に感覚障害やしびれなし

DVTの評価

深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)とは、深部静脈に血栓が生じるものです。血栓は左下肢に生じることが多く、約60%が症状を呈さない無症候性血栓という報告もあります。DVTの症状としては、表在静脈の怒張、片側の下肢の腫脹・緊満感、発熱、圧痕性浮腫、ホーマンズ徴候、うっ血による色調変化などがあります。

松葉杖の使い方

術後早期から松葉杖を使って歩行を行います。患肢に荷重がかかる と再断裂の危険性があるため、松葉杖歩行時の転倒には注意しましょう。


松葉杖は体幹の側面で固定し使用し、腋窩を直接圧迫しないようにします。腋窩にあ る血管や神経が圧迫されると、腋窩神経麻痺を生じてしまいます。腋窩神経麻痺を生じると、三角筋周囲の感覚低下や肩の外転動作でMMTが低下します。
1/3 〜 1/2 荷重では両松葉杖2/3 荷重では片松葉杖になります。全荷重になり、片足立ちできる ようになれば松葉杖は不要になります。ただし、歩行が不安定な方は松葉杖を継続して使用します。

アキレスブーツとは?

術後1~2週間ギプス固定をした後は、ギプスを除去して、アキレスブーツを装着します。

アキレスブーツとは、ヒールの高さを調節できるブーツです。アキレス腱への負担を軽減するために、踵下にヒールパッドが重ねられています。

アキレスブーツを装着した後は、1 週間ごとに足底のヒールパッドを 1 つずつ取り、背屈角度を下げていきます。こうすることで徐々にアキレス腱への負荷を上げていきます。

アキレスブーツの装着期間は施設によって異なりますが、約6週間程度です。

参考文献

病気がみえるvol.11 運動器・整形外科

整形外科 術後理学療法プログラム−第3版 ←めっちゃおすすめ!整形外科Dr推奨

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