【総まとめ】肘部管症候群とは? 随時更新型ページ

整形外科

どうも、勉強に苦しむ医療系学生に救いの手を!がモットーのどすこい研修医(@doc1com)です。

正中神経麻痺の一つである手根管症候群に比べて、影が薄めの肘部管症候群。

「尺骨神経麻痺は覚えてるけど、別名は忘れた。」「肘の名前が付いてた気がするけど・・・あれ何だっけ?」と、整形外科に興味がない学生は割と忘れがちな疾患です。

今回は、肘部管症候群について現時点で調べたことをまとめてみました。

新しい情報があればまた追記します。量が多いので自分に必要な箇所だけ読んでくださいね。

医療系学生を対象としているため、専門医レベルの内容ではありません。

肘部管症候群とは?

肘部管症候群(読み方:ちゅうぶかんしょうこうぐん、英語:Cubital tunnel syndrome)は、尺骨神経障害のうちの1つで、肘部管内で尺骨神経が圧迫されて生じる絞扼性の神経障害です。絞扼性神経障害の中で正中神経障害が最も多く、次に多いのは肘部管症候群です。

尺骨神経麻痺は障害される部位によって、肘部管症候群(尺骨神経高位麻痺)、Guyon管症候群(尺骨神経低位麻痺)に分けることができます。

尺骨神経の低位で麻痺が生じるGuyon管症候群(尺骨神経低位麻痺)に対して、尺骨神経高位で麻痺が生じる肘部管症候群を尺骨神経高位麻痺と呼ぶこともあります。

手のモデルは協和キリンメディカルサイトさんより引用改変

解剖

手根管は手根骨と屈筋支帯で構成されたトンネル状の構造物であり、その中を正中神経と指屈筋腱が走行しています。

Blausen.com staff (2014). “Medical gallery of Blausen Medical 2014”. WikiJournal of Medicine 1 (2). DOI:10.15347/wjm/2014.010. ISSN 2002-4436., CC BY 3.0, via Wikimedia Commons, adapted

疫学

イタリアの報告では、年間発生率は10万人年あたり24.7例であり、男性の発生率は女性のほぼ2倍でした(10万人あたり32.7対17.2)

男性:32.710万人当たり

手根管症候群は40から60歳代の女性に特に多いと言われています。

日本国内の大規模調査は見つけられませんでしたが、推定年間発生率は、1000人あたり女性で2.2~5.4人/年、男性で1.1~3人/年です1)2)3)

原因

特発性

原因不明

内分泌代謝

透析アミロイドーシス
慢性腎不全
糖尿病
甲状腺機能低下症
痛風
偽痛風
先端巨大症
ムコ多糖症
ムコリピドーシス

炎症性

関節リウマチ
感染性関節炎
腱鞘炎

解剖学的要因

橈骨遠位端骨折による変形
手根骨脱臼・骨折による変形
ガングリオン・腫瘤などの占拠性病変
筋や腱の破格

その他

女性
肥満
妊娠・出産
高齢
アルコール多飲
喫煙
反復運動
アロマターゼ阻害薬

症状

感覚障害(しびれ)

典型的な例では下図の赤い部分にしびれが存在します。

非典型例では痛みが手首に限局している場合や、手全体に及ぶ場合などバラエティに富んでいます。

ring finger splitting

正中神経障害を示唆する所見としてring finger splittingがあります。ring finger splittingとは、ring finger(リングをはめる指=環指)で半分だけ出現する感覚障害です。

環指(第四指)の橈側のみに感覚障害が出て、尺側には感覚障害が出ません。この理由は、環指の橈側は正中神経支配、環指の尺側は尺骨神経支配だからです。

手背のしびれはPIP関節より遠位に限局

手背の感覚障害の有無もしびれの鑑別を考える上で重要なポイントです。正中神経麻痺で障害されるのは手背の一部のみです。

正中神経障害では、手背のPIP関節(近位指節間関節)より近位では感覚障害を生じません。「手の甲もしびれる」と患者さんから訴えがあれば、正中神経障害以外の疾患を考える必要があります。

母指球部の感覚は正常

手根管症候群では、母指球部の感覚は正常です。

母指球部の感覚を支配する正中神経掌枝が絞扼部よりも近位で分岐するため、障害を受けないからです。

運動障害

手根管症候群では母指球筋の萎縮、対立運動不能の影響で猿手やperfectOの不整を認めます。

猿手(母指球筋の萎縮、母指対立不能)

母指球筋は、短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋を構成する4つの筋肉の総称です。

母指球筋のうち、母指内転筋以外の3つの筋は正中神経支配です。

正中神経障害でこれら3つの母指球筋が萎縮し母指球部が平らになります。また母指対立運動が出来なくなり、母指が内転します。その結果、猿の手のようになります。

これは手外科の先生に教えて頂いたTIPsですが、手を広げた状態で観察するよりも、お椀を抱えるポーズをしてもらった方が母指球部の萎縮を評価しやすくなります。

両手でお椀を抱えるポーズの方が母指球筋の萎縮がわかりやすい

Dr. Harry Gouvas, MD, PhD, Public domain, via Wikimedia Commons, adapted

母指球筋の復習をしたい方はこちらの記事をどうぞ。正中神経支配筋(11個!)のゴロ合わせも紹介してます。

perfectO不整

精鋭製作中。。。

検査

Tinel徴候

Tinel徴候とは、手関節付近の正中神経を4~6回叩打すると、正中神経の支配領域である母指~環指橈側および手背の一部にチクチク感やムズムズ感が生じる現象です。

Tinel徴候は、手根管症候群に対して+LR 1.4、-LR 0.8程度です4)

有名な割に診断的価値は微妙ですね。

Tinel徴候は検者によって差が出るテストです。経験の浅い研修医では陽性になりませんでしたが、手外科の先生が実施すると陽性になりました。

コツとしては手関節を背屈させて、tappingしていくことみたいです。アドバイス通りに実施すると意外と近位で痛みが誘発されました。

手技や患者さんの答え方に依存してしまうため、手外科の先生と学生とでは感度・特異度が大きく異なる身体所見です。

手関節を背屈させtappingしてみると陽性になることも

Phalenテスト

Phalenテスト5)は、両手の手関節を掌屈して互いに押し付け60秒間保持します。

手根管症候群では、正中神経支配領域の痺れや感覚異常が増悪し、手関節を中間位に戻すと症状は軽減します。

Phalen徴候は、手根管症候群に対して+LR 1.3、−LR 0.7程度です4)

こちらも有名な割に診断的価値は微妙ですね。

LittleT889, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons

手根管圧迫テスト Carpal tunnel compression test

Carpal tunnel compression test6)は、正中神経の上を両手の母指で最大30秒間圧迫します。

正中神経支配領域の感覚異常が生じれば陽性です。

イラスト付きのわかりやすい動画がありました。こちらからどうぞ。

Semmes-Weinsteinテスト

Semmes Weinstein Test(SWT)は、径の異なるナイロンフィラメントを用いて皮膚上に触刺激を加え、その応答によって静的触覚の閾値を判定する感覚検査です。

静的触覚は、物体の性状の識別能力や持続的な把持などに関連する感覚機能です。

SWTは初期の手根管症候群を検出するための最も敏感な感覚検査と言われています。手外科の先生が外来で実施されているのは見たことがありますが、一般整形の先生で使用しているのは見たことがありません。

酒井医療株式会社さんHPより引用

神経支配密度テスト

診断

手根管症候群の診断に関して国内のガイドラインは見当たりませんでした。

wittらによる診断基準

Wittらによる手根管症候群(CTS)の診断基準7)は、病歴と身体所見で構成されており、検査機器が整っていない病院や研修医でも取り組めそうです。

major criteria
①手の異常感覚(必須)
②車の運転、本を持つ、電話を持つ、手を挙げる仕事をするなどで増悪
③手の異常感覚ないし痛みで目が覚める
④手を振るか、寄りかからせるかで改善
minor criteria
①脱力感
②巧緻運動障害もしくは物を落とす
③TinelもしくはPhalen徴候
definite CTS:major①+他のmajor少なくとも2つ
possible CTS:major①+他のmajorないしminorのどれか1つ

major criteria①手の異常感覚は、第1指~3指、第4指橈側のしびれがある場合であり、第1~3指にしびれのない場合は可能性が低くなります。

minor criteria②巧緻運動障害は、短母指外転筋の筋力低下に起因するつまむ力の低下です。

短母指外転筋のMMTは、掌側を上にした状態で母指を患者さん側へ90°立ててもらい、その力に抵抗することで計測します。短母指外転筋以外のMMTを計測しても良さそうですが、その他の母指球筋は尺骨神経も支配しており、正中神経障害の評価が難しくなってしまいます。

正中神経のみの支配である短母指外転筋のMMTを計測することで、正中神経障害を評価するのです。

短母指外転筋は、母指の手根中手関節(CM関節)の掌側外転に作用します。

掌側外転(母指を自分の方へ90°立てる動きです。)のイメージが湧かない方はこちらのyoutubeをどうぞ。

Abductor pollicis brevis – Thenar muscles , Animation without narration

参考文献

1) Arch Intern Med. 2011;171(10):943.

2) Neurology. 2009;72(1):33. 

3)Muscle Nerve. 2018;58(4):497. Epub 2018 May 18. 

4)D’Arcy CA & McGee S: The rational clinical examination. Does this patient have carpal tunnel JAMA, 283 : 3110-3117, 2000

5)Phalen GS : Am Acad Orthop Surgeons 14:142, 1957

6)Dunkan JA: J Bone Joint Surg 73A:535, 1991.

7)D’Arcy CA & McGee S: The rational clinical examination. Does this patient have carpal tunnel syndrome? JAMA, 283: 3110-3117, 2000


コメント