医療にも費用対効果の視点が入ってきた
第120回医師国家試験で費用対効果を扱った問題が出題されました。「将来は自分で計算させる問題が出るかもしれない」と言われるほど、医療経済の重要性が増しています。
日本でも2019年度から費用対効果評価制度が本格導入されており、公衆衛生の新しい定番テーマになりつつあります。
QALYとは
QALY(Quality-Adjusted Life Year:質調整生存年)は、生きた年数に「その年のQOL」で重みをつけた指標です。
QALY = 生存年数 × QOLの重み。QOLの重みは完全な健康が1.0、死亡が0です。
たとえばQOL 0.5の状態で4年生きた場合は 0.5 × 4 = 2 QALY。完全に健康な状態での2年分と同じ価値、という考え方です。「長く生きればいい」ではなく「どういう状態で生きるか」まで含めて評価するための指標です。
ICERとは
ICER(Incremental Cost-Effectiveness Ratio:増分費用効果比)は、新しい治療が既存の治療と比べて1 QALYを追加で得るのにいくらかかるかを示す数字です。
ICER = 費用の差 ÷ 効果の差(円 / QALY)
目安は 500万円 / QALY
分子が費用の差、分母が効果の差。ICERが小さいほど費用対効果が良いということになります。
日本では概ね500万円/QALYあたりが判断の目安とされています。この値を超えると「費用に見合わない」と評価される方向になります。
計算してみる
新薬Aと従来薬Bを比べたとします。費用は新薬が600万円、従来薬が100万円。効果は新薬が5 QALY、従来薬が3 QALY。
費用の差は 600 – 100 = 500万円。効果の差は 5 – 3 = 2 QALY。したがってICER = 500万 ÷ 2 = 250万円/QALY。目安の500万円を下回るので、費用対効果は良好と判断されます。
制度上の位置づけに注意
国試で引っかけられやすいのがここです。日本の費用対効果評価制度は、価格の調整に使うもので、保険収載の可否そのものを決める仕組みではありません。
つまり「費用対効果が悪いから保険適用しない」という運用ではなく、いったん収載したうえで価格を引き下げる、という形をとっています。イギリスのNICEのように収載可否に直結させる国とは考え方が違う点が、比較として問われる可能性があります。
対象も限定的で、高額で財政影響の大きい品目が選定されます。すべての医薬品が評価されるわけではありません。
国試ではここが問われる
計算そのものより、QALYとICERの定義、そしてICERは小さいほど良いという向きが問われます。「ICERが大きいほど費用対効果が良い」は誤りです。
また、費用には直接医療費だけでなく、公的介護費や生産性損失を含める場合がある(分析の立場によって変わる)点も、余裕があれば押さえておくとよいでしょう。

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